「はぁーーーーー・・・・・・。」



部活後、俺は部室の椅子に座り、一人項垂れていた。
着替えはとうに済ませたが、帰る気力がない。
・・・・・・まさか、あんな失態を演じてしまうとは。

俺は今日、跡部さんとの試合に挑んだ。
跡部さんのような技を身に着け、今度こそ上へ行けると思ったからだ。
試合の結果は・・・・・・この際、どうでもいい。いや、どうでもよくはないが、それ以上に・・・・・・。



「はぁーーーーー・・・・・・。」


何度目かわからない、大きなため息を吐く。
この息とともに、今日の出来事も俺の中から消え去ってくれ・・・・・・!



「・・・・・・日吉?」

「!!」



らしくもなく、起こりえないことを願ってしまっていたせいか、声をかけられるまで人が入って来たことに気付かなかった。
反射で声の方に振り向きそうになったが、今日の出来事が頭に浮かび、動きを止めた。



「ごめん、勝手に入っちゃって・・・・・・。」



声の主は、俺の彼女であるだ。



「いつもどおり校門で待ってたんだけど、鳳くんが『日吉の様子が変だった』って教えてくれて。『部室も入っていいよ』って言われたから。一応ノックはしたんだけど・・・・・・。」



そう、彼女、だ。
もしの方を振り向き、先輩たちのように、その・・・・・・“見え”てしまったとしたら。
・・・・・・駄目だ。考えるだけでも、何かと危険だ。



「・・・・・・気にするな。こっちこそ悪い、待たせたな。」

「ううん、それは全然!気にしないで?・・・・・・それより、何かあった?」

「・・・・・・・・・・・・。跡部さんと試合して、な・・・・・・。」

「そっか・・・・・・。次のために、いろいろ考えてるんだね。」



そうじゃない、と正直に話すわけにもいかず、とは言え、そうだ、と偽る器用さを俺は持ち合わせていない。



「・・・・・・帰るか。」

「うん、そだね。」



話を逸らし、帰る支度を始めた。
なるべく、の方は見ずに。



「・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」



帰り、は俺を気遣ってくれているようで、何も言わず隣を歩いていた。
こんな俺と一緒にいたところで、楽しくもないだろうに。



「・・・・・・悪い。」

「ん?」

「つまらねえだろ?一人で帰ってくれてもいいんだぞ。」

「・・・・・・ううん、私は日吉と一緒がいいよ?」



見なくてもわかる。
きっと今、は少し寂しそうにしながらも、俺に笑顔を向けてくれているのだろう。



「でも・・・・・・、もしかして、日吉は一人の方が良かった?」

「いや、そんなことは・・・・・・。」

「何だか今日は、こっちを見てくれない気がしたから・・・・・・。」

「・・・・・・少し時間もらっていいか?」

「ん?うん、大丈夫だよ。」



無言で近くの公園へ向かい、ベンチに腰かけた。
も何も言わず、隣に座る。
真実を話すことは当然躊躇われる。だが、が誤解したまま傷ついているのを放っておけるわけがない。
覚悟を決め、少し息を吐く。



「・・・・・・今日、跡部さんと試合した、と話しただろ?」

「うん。」

「あの人は、対戦相手の弱点を見る能力が長けている。」

「うん。」

「跡部さんには、人の骨格、と言うより、骨そのものが見えているようなものだそうだ。骨から体の動きを予測したり、死角を見つけたりできる。」

「・・・・・・すごいね。」

「ああ。だが、俺も練習を積み重ね、同じように相手の弱点が見えるようになった。」

「すごい・・・・・・!」

「それを今日の跡部さんとの試合で実践しようとしたが・・・・・・なぜか・・・・・・服を着ていない状態にしか見えなかった。」

「それは・・・・・・骨までは見えなかったけど、筋肉の動きとかは見えたって感じなのかな?」

「いや、それ以前の話だ。単に、何も身につけていない姿が見えた。しかも、対戦相手の跡部さんだけでなく、他の部員や榊先生までそう見えてしまった。挙句・・・・・・自分自身が服を着ているかどうかもわからなくなった。」

「えぇっ!?それって・・・・・・。」



今まで俺の話を静かに聞いてくれていただったが、さすがに固まってしまったようだった。
そうだろうな。不快に思ったかもしれない。
その上、もそう見えては困るなどと話してしまえば、さらに不快感は増すだろう。いや、嫌悪感か。
これ以上話すべきでないかもしれないなどと考えていると、先にが口を開いた。



「あの、日吉・・・・・・。ごめん、日吉が困っているときに、こんなこと聞くのもどうかと思うんだけど・・・・・・1つだけ聞いてもいい?」

「ああ、何でも言ってくれ。」

「えっと・・・・・・その、日吉が服を着ているかわからなくなっちゃったときって・・・・・・周りに女の子はいた?」

「いや、部員と榊先生だけだったから、いなかったはずだ。」

「そっか・・・・・・よかった・・・・・・。いや!よくはないね!ご、ごめん!」

「よかった・・・・・・?」

「いや、その・・・・・・。男性同士なら、お風呂とかで見ることもあるだろうから仕方ないって思えるけど、やっぱり他の女の子に日吉を見られるのはヤだなって・・・・・・。あー、ごめん!本当、忘れて・・・・・・!」



そう言って、が手で顔を覆った動きが、視界の端に見えた。
そういう反応されると、つい見たくなる。
俺は思わず、の方を向いてしまった。だが、そこには普段どおりの姿しか見えず、少し安堵する。



。」

「・・・・・・。」



俺の呼びかけに恐る恐る顔を上げ、俺と目が合うと一瞬嬉しそうにしたあと、慌ててまた恥ずかしそうに少しだけ目を反らした。
まったく・・・・・・。煽るな。



「話を戻すが。そういう状態だったから、のこともそう見えてしまったら困ると思って、今日は目を合わせてなかった。悪かった。」

「え、あ、うん・・・・・・。そうだったんだ・・・・・・。話してくれてありがとう。」



誤解が解け、安心したように笑うに、俺も一安心する。
だが、または恥ずかしそうにしながら、こちらを窺う。



「一応、聞いておくけど・・・・・・今は、その・・・・・・大丈夫、なんだよね?」

「ああ、問題ない。」

「よかった・・・・・・。日吉に幻滅されちゃったら嫌だからね。」



はにかみながら、はそんなおかしなことを言った。
幻滅?俺が、に対して?



「普通逆だろ。見られたの方が、そう思うんじゃないのか?」

「え、そう?でも、もし日吉が見えてしまったとしても、それは不可抗力でしょ?日吉のせいじゃないし。」

「大体、なんで俺が見えただけでに幻滅することになるんだよ?」

「それは・・・・・・実はたるんでるんだなぁ、とか思われたら・・・・・・。」

「あのなぁ・・・・・・。そんなこと思わねえよ。」

「いや、わかんないよ?まあ、私が痩せればいいだけの話なんだけどね。うん、頑張ろう。きっと、いつかは日吉に・・・・・・って、とにかく!日吉、話してくれてありがとう!さ、そろそろ帰ろっか!」

「あ、ああ。そうだな・・・・・・。」



がおかしなことを言うせいで、結局帰り道はまた無言になってしまった。
見えようが見えまいが、は危険だということがあらためてわかったな・・・・・・。

・・・・・・けど、が言うように、いつかその日がくるとしたら。
もう少し冷静でいられるようにしとかねえとな。
の反応をすべて見逃さないようにするために、な。













 

書けた・・・っ!
本当は、昨年の日吉くんのお誕生日時にアップしたかったのですが・・・。
遅くなりました・・・(滝汗)。

とにかく、今回書きたかったのは「日吉王国(キングダム)」ネタです!(笑)
あれをどうにか夢にしたい!と思いまして!!
どんな日吉くんでも、私は幻滅しないぞ!(笑)

('20/05/06)